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釧路で、もう一度逢いたい。(富良野でさようなら)

    (昨日の続き)

    抜け殻になりそうな自分を支えるために、AV撮影やキャ
    パクラのオープン・ラストに打ち込んだ。

    1~2ケ月ぐらいしてか、知らない男性から電話がかかってきた。

    クロサワ「はい、クロサワです。」
    男性「ご主人さんですよね?」
    クロサワ「は?」
    男性「あのぉ~。芦野の清算なんですが・・・」
    クロサワ「あしの?」
    男性「解約に、一緒に来られた方ですよね?」

    その瞬間、瞳との事を鮮明に思い出した。
    確か、瞳のアパートがあった場所だ。

    クロサワ「ああ、そうです。」
    男性「本当に、、、この度は・・・」
    クロサワ「はぁ・・・」
    男性「釧路の病院じゃ難しかったんですって?」
    クロサワ「えっ?」
    男性「もう少し早く、東京の病院に行っていれば助かったかもなんて・・・本当に、、なんと、申し上げていいか・・。」

    突然の話しに頭が真っ白になった。

    クロサワ「瞳は、、、、亡くなったのですか?」
    男性「えっ?」

    大家の話では、部屋の引渡しに親族が来て、瞳が亡くなったという事を知ったらしい。
    東京に引っ越すという瞳の幸せな笑顔から、大家も事実が飲み込めず、その場で呆然としてしまったと言う。

    後になり、残金処理が残っている事に気づいたが、保証人にも連絡がとれなく、転居先の連絡先としてあったクロサワの携帯電話にやむなく掛けてきた。

    クロサワ「し、知りませんでした・・・」
    男性「えっ、、そうだったんですか?。す、すいません。」

    瞳は、軽い貧血で入院したらしいが、急に病状が悪化したらしく、満足な対応ができないまま旅立ったらしい。

    それだけを聞くのが、、、精一杯だった。

    ・・・

    ナナコ「 (泣) 」
    クロサワ「だから、もう一度、釧路で瞳と待ち合わせた場所に来たかった。」
    ナナコ「(泣)」
    クロサワ「あの日、瞳はここで待っていたのかも知れない・・・」
    ナナコ「(泣) そのアパートに行ってみる?」
    クロサワ「いや、いいよ。」
    ナナコ「(泣)」

    クロサワ「ごめんなナナコ。一人でくればよかった。」
    ナナコ「ううん。平気。クスンッ。」
    クロサワ「実は、俺も一人ではきづらかったんだ。」
    ナナコ「(泣)」
    クロサワ「行こうか・・・」

    8月3日(水)は釧路に泊まり、4日朝から富良野に向けて移動。

    ラベンダーが満開だ。

    ナナコ「すごい。すごい。!!!」
    クロサワ「ははは。」
    ナナコ「本当に、すごいね。綺麗だね~。」
    クロサワ「そうだねー。」

    ナナコ「・・・」
    クロサワ「・・・」

    ラベンダー畑を散歩しながら、二人の長い長い沈黙が続いた。

    ナナコ「瞳さんに見せたかったの?」
    クロサワ「えっ?」

    全てを、見透かされた気がした・・・。

    瞳とはよくドライブをしていた。富良野に最後に来た時は、あたり一面真っ白な雪の中だった。

    瞳「今後こそ、ラベンダーが満開の時に来ようね!」

    富良野の凍える様な夜、降りそうな星空の下で、、、
    瞳を抱きしめながらした約束が、心のどこかにあり、一つでもかなえられればと・・・今、富良野に来たのかもしれない。瞳と逢いたい。

    クロサワ「そんな事は、ないよ。」
    ナナコ「・・・」
    クロサワ「・・・」

    でも本当は、あの時に戻りたい。
    今、すぐに瞳を抱きしめたい。。。

    ナナコ「私さぁ・・・」
    クロサワ「?」
    ナナコ「(泣)、、瞳さんになりたいよ・・・。」
    クロサワ「えっ?」
    ナナコ「ちょっとでも、、、瞳さんの代わりになれる様・・(泣)」

    ナナコの言葉でクロサワの目が覚めた。
    せっかく、ナナコが楽しみにしていた北海道旅行で、自分の悲しみをナナコに押し付けて、少しでも逃れたいと思う酷さに気づいた。

    クロサワ「ごめん。」
    ナナコ「・・・」
    クロサワ「ナナコは、、、ナナコだから。」
    ナナコ「・・・」
    クロサワ「瞳との想い出も大切だけど、それ以上にナナコと、ここにいる時間の方が大切だから。」
    ナナコ「・・・ほんと?」
    クロサワ「本当だよっ。信じろっ。 さあ、行こうか。」
    ナナコ「うん・・。あのさ、、、手、つないでくれる?」

    その夜。

    クロサワ「ナナコ、ちょっと外に行こうか。」
    ナナコ「うん。」

    車のライトを消して降りると、あたりは真っ暗で、遠くにまばらな明かりだけが見える。

    クロサワは、サイフから一枚の写真を出して、火をつけた。
    瞳と二人で撮った写真。
    一生残しておこうと思った、たった一枚。
    みるみる燃えて、手で持てなくなり、地面においた。

    ナナコは、それが何かも聞かず、、そして何も言わずに、、
    燃え尽きる写真の前にしゃがむと、目を閉じて、、
    静かに手を合わせた。

    さようなら。